【10連休企画10連ブログ⑧】成年後見制度と転居支援のはなし

こんにちは、森のすず社会福祉士事務所 社会福祉士 森保純子です。

連休8日目。兵庫県南部は、連休後半は温か…暑いぐらいの良い天気です。10日って長いなと思っていましたが、振り返るとあっという間。今日は5月4日でみどりの日。

10連続ブログ8回目は『成年後見制度と転居支援のはなし』

引っ越し経験ってありますか?私は、何度かあります。必要に迫られて引っ越しすること、気分を変えたくて引っ越しする人・・・いろんな都合で住処を変えることは、人生の中で何度かあるかと思います。

そんな引っ越しにまつわる、ちょこっと知ってくと良いかもしれない話。

高齢になると、それまでの暮らしを続けることが難しくなることがあります。骨折して以来車椅子生活になった、とか、認知症が進行して常時見守りが必要、とか、家族が高齢になった親を心配して呼び寄せる、とか。理由はさまざまですが、それまでの住処を変える機会は、高齢になるほど誰にでもあり得るのかもしれません。

そういえば、私の祖母も、おそらく60年ぐらい住んでいたであろう、古い段差の多い古民家というほどおしゃれなものでもない家屋から、個室の施設に移り住んだことがあります。元の家はそのまま残してあるのですが、それでも離れるのは、仕方ないとはいえ寂しさがあっただろうなと思います。

長年住んだ家や、幼少期に住んだ実家など、人は住む場所にも馴染み思い入れができるものだと思います。それまでに続けてきた生活は、他人にはどう見えても、自分の中では愛着のあるものではないでしょうか。

なんらかの理由で判断力に不安があり、成年後見制度を利用する方は、年々増加しています。簡単にいうと、成年後見制度は、補助人・保佐人・成年後見人と呼ばれる人(ときに法人)が付き、その人に必要な財産管理や身上監護(安全に暮らしていけるようにいろいろ配慮する)を行います。本人の判断力の程度により、補助人・保佐人・成年後見人が決められています。成年後見制度は2000年にスタートしましたが、2000年には介護保険もスタートし、介護や福祉サービスを『契約』で使う時代に合わせて登場した制度です。今後、高齢化率もまだ増えて、認知症になる人も増えると予想されているので、成年後見制度や金銭や財産の管理をサポートする仕組みというのは、ニーズが増加すると思います。

さて。

もし認知症になったら…というのを考えると、心配なのは「いつまで、この生活ができるのだろう」という部分だと思います。独居の場合、認知症にならなくても、入院することになったらどうしたらいいのだろう、施設に入ったほうがよくなったときはどうしたらいいのだろう…といろいろ心配ではありますが。その話はまたの機会に。

認知症等で判断がむずかしくなった場合には、成年後見制度の利用で、財産や生活は守られますが、その中で、状況に合わせて住処をかえることは必要です。

最初に書きましたが、住み慣れた家というのは、なんとも心地よく、安心できる大切な場所です。それがたとえ賃貸でも、住み慣れれば「城」です。自分の持ち物もたくさん詰め込まられ、思い入れとともにあります。引っ越すことで家賃や環境が変わるということは、本人の財産も生活も変化することにつながります。持ち家であれば、なおさら財産には影響するでしょうし、「私の家がなくなった・・・」ということになれば、いろいろと思うことも多いもの。

引っ越しというのは、きっと、その人にとっては、人生の大きなイベントです。特に、高齢者にとっては、環境を変えるということが、認知症の進行につながることもあり、慎重になされるべきものでもあります。

成年後見制度では、『居住用不動産の処分』には、家庭裁判所の許可が必要です。居住していた家を手放す必要が出た時、後見人等は裁判所に対して、その必要性や今後の生活について説明し、許可を求める申立てを行います。

つまり、例えばすでに本人が入院して老健や特養に入り、前の家には戻ってこれないことが明らかでも、成年後見人等が勝手に処分することはできません。賃貸はいずれ引き払わなければならないでしょうが、後見人等がかってにすることはできません。もちろん、持っている家を売却するとかも、勝手にはできません。それは、入院直前まで住んでいた家にかぎるのではなく、例えば子供の頃に住んでいてその後は離れた所有不動産である実家なども、その対象になります。

つまり、成年後見制度では、本人の住処をとても大切に思い、成年後見人等の一人の判断でそれを失くしてしまうことのないような仕組みをもっています。

それほど大切なもの。

ちなみに、不動産売却の場合は、必要があってこその話なので、もう住まないから、という理由で売却許可が下りるものでもなさそうです。賃貸の場合は、住んでなくても毎月賃料がかかってくるので、本人の財産を守るためにもどこかのタイミングで解約が必要な場合がおおいですけどね。

成年後見制度を利用するということは、程度の差はありますが、財産の管理には不安がある状態です。大きな金銭の使用には、適切な手続き、妥当な対応、契約書の理解と判断など、いろいろな作業が必要です。それをサポートするのも必要ですが、身上監護面から考えると、本人への説明も大切なものだと思います。

生活が変わること、住む場所がかわることは、誰にとってもストレスになります。自分で決めて、あたらしい生活にわくわくするのであれば、それは良いストレスかもしれません。でも、仕方なく決める転居は、心への負担も大きいものです。

転居した後の生活も、どう変わるのか・・・。状況によっては、選択肢は少なく選べない必要に迫られた転居の場合もありますが、「こんなはずじゃなかったのに、こんなの嫌だ」と思う部分ができるだけ少ないように支援したいと思います。

そういうわけで、結局は、ご本人にどのように説明でき理解してもらえるか、これからの不安を減らせるか、失うことへの寂しさを納得感で補えるか、結果として安心安全快適幸せな生活につなげることができるか、そのあたり、大切なんだと思います。それは、本人支援をしていく上で、転居だけに限らず、あらゆるものに関して、支援者は説明をしながら支援する必要があると思います。その中でも、特に転居については配慮が必要です。成年後見制度を利用していなくて、ご家族の中でご本人の住処を変えるサポートをされる場合もあると思います。その際には、「説明しても分からない、必要だから仕方ない」と思わずに、できるだけの説明や将来の見通しはお話されると良いかと思います。

さて、春の引っ越しシーズンは終わりましたが、これから暑くなる季節。熱中症をパイして、一人暮らしの方の居所を変えることが検討されやすくなると思います。本人の思いを大切に、安全も確保して、そのための説明も準備も念入りに。

私も成年後見等を受任するものとして、説明し安心していただけるよう、研鑽してまいりたいと思います。

いろいろな生活があるし、いろいろな配慮点があるのは、道も人生も同じなのかも。先が見えるから安心。もしも暗闇でライトがなければ、一歩を進むのすら怖い。もしも、本当はこの先道が突然消えてるのだとしたら、知っていたら乗らない。完璧に予測することは難しけれど、見通しをつけることはできる。支援者はその人の人生に伴走するけれど、その結果は本人がうけるもの。だとしたら、晴れの日も雨の日も、ご本人が安心できる速度で見通せるような環境を保つ伴走者でありたいなと思います。