介護・介護保険

高齢者虐待防止法などのはなし。~何を守りたいか、守るべきか~

高齢者の虐待防止について、ときどき研修をする機会があります。
施設向けであったり、個別支援の専門職向けであったり、対象はいろいろです。

虐待と聞くと、その対象は、高齢者、障害者、こどもの3つが思い浮かびます。
他にもあるかもしれません。動物虐待も動物好きとしては思い浮かびますが、まずは人間の話に絞りましょう。

高齢者、障害者、こども・・・だれもが『尊厳』は尊重されるべき存在です。
高齢者、障害者、こども以外の人も、同じです。

尊厳は、等しく、人間がお互いに尊重しあうべきものです。

ところで、その尊厳が損なわれるようなことが起こる場合を想定して、日本の法律では、高齢者、障害者、こどもに対して、それぞれ、虐待防止法を別に定めています。

 

今回は、高齢者虐待防止法の話。

正式名称は、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」。
長いです。長いので、略して「高齢者虐待防止法」。
2006年4月1日施行です。

しかし、略してしまうと抜け落ちているのですが、正式名称の後半部分「高齢者の養護者に対する支援等に関する」がついているのは、実はとても意味があることだと思います。

第1条を読むと、なるほどな~とおもいます。第1条は(目的)がかいてあります。

虐待が行われた場合、被害に会っている被虐待者はもちろん高齢者です。
暴力を振るわれたり、心理的につらい思いに追い込まれていたり、経済的に不利益なことをされていたり、性的虐待や、介護されず放置されている場合もあるでしょう。
高齢者虐待は身体的、心理的、経済的、性的、ネグレクトの5類型です。:

虐待をする側は、養護者(同居の有無は問わず、その高齢者の養護…日常の世話やお金の管理などをしている人)か、養護者でなく施設等で働いているいわゆる福祉介護の専門職が想定されます。

 

もちろん、家族だろうが友人知人だろうが、施設の職員だろうが、『痛めつけてやる!!お金搾取してやる!!』と思ってやるのは、どう考えても良くないことで、加害側も意図的にそれをするのであれば、それは明らかに良くないのですが。

 

実際は、特に家族介護などの場合、良かれと思ってやっていたり、まじめに熱心に取り組んだり、一生懸命しようとした結果、虐待だということになる場合もあります。例えば、良かれと思って叱咤激励し歩くように促すのは、それが、高齢者本人を動かすために、暴力になるような行動を加えてまで行うのはやり過ぎですし、自分でやるようにと放置してしまっているのも、やり過ぎになる場合があります。一生懸命介護していても、その気持ちに高齢者が答えられず、思わず養護者の手が出る場合もあるかもしれません。

食事介助を一生懸命しているのに、一向に口をあけてくれない高齢者に、ついつい、「なぜなの?食べないと元気にならないのよ!」と平手打ちをしてしまう…。普段は温厚な介護者は、親を失いたくない気持ちや疲れや不安な気持ちややりきれない思いが一気にきて、一瞬我を忘れた行動をとってしまう場合もあります。そして、その場その場は一瞬でも、状況に改善がないなら、その疲れや不安は解消されることなく、虐待を起こす状況は続いていきます。

そんな状況を改善するためには、養護者を支援することが大切です。

高齢者虐待防止法では、養護者を支援することが記載されていることは、とても意味のあることです。

虐待の通報は、通報される側となる人から見ると、いい気持ちはしません。当たり前です。
通報のイメージは、「110番通報」のようなイメージが強いのか、罰を与えられることと結びついているイメージがあるように思います。

しかし実際は、高齢者虐待防止法では、養護者に罰を与えることを第一目的としているわけではなく、高齢者の尊厳が損なわれている状態から高齢者を守ることと、それに伴い、養護者が介護に困っていたり生活に困っているのであれば、そこに支援をつなげていこうという考え方です。

なので、通報という言葉の響きがいいか悪いかは別として、本来は、「虐待がおこなわれているかもしれない」という話は、「だから、それが本当なら、高齢者本人をまもらなければ! 介護しているご家族も辛い状況だからサポートしなければ!」という思いがついていて、そういう支援につなげるために、通報が、対応チームを動かしていく最初の動きであると考えるべきです。

本当は、家族支援も含めて、もっと早い段階の誰も傷まないときに、必要な支援につながり活用してもらえればいいのですが、実際は、さまざまな理由の介入拒否や、価値観や、その家庭の考え方や、介護する側される側の心身の状況があり、ことは起こってしまう場合があります。

通報という言葉は、すでにあまりいいイメージはないので、「相談」。

そして、虐待かどうかを判断するのは、行政。

相談をする人は、「もしかして、虐待みたいになってるのかもしれない」と不安に思うことを、地域包括支援センター等の窓口に「相談」することで、いろんな人が協力できる体制につながっていきます。

 

虐待が発生しているかもしれない状況において、第一に守るべきなのは、被虐待者となっている高齢者の命や心や身体や財産。
でも、それだけを守るのではなく、養護者にも必要な支援を。

罰することを目的とせず、守ることを目的としている高齢者虐待防止法。

誰もが、穏やかに安心して暮らせる社会につながるものであると思います。