日: 2018年10月4日

記憶力のはなし~認知症になると近い記憶から消えるというけれど~

「認知症になると、最近のことは忘れますが、昔のことはしっかり覚えていて・・・」という話を聞いたことがあると思います。確かに、アルツハイマー型認知症の方で、さっき食べたご飯の内容はわすれてしまっているのに、女学生のころの思い出話はまるで今の出来事のようにお話される方がいらっしゃいます。さて、記憶ってどういうものなのでしょう?認知症になると、記憶ってどうなるのでしょう?覚えること、思い出すことについて考えてみたいと思います。

こんにちは。森のすず社会福祉士事務所の森保です。

最近、年のせいか、「えーっと、あの人あの人、ほら、あの人!!」ということが増えてきたように思います。

本当に年のせいなのか、そもそも本当に増えているのか、そのあたり、主観的なものなのでなんともわかりませんが。

しかし、年と共に記憶力に不安や心配を持つことが増えるのは、多くの人に思い当たることではないかと思います。
おそらくそれは、認知症への心配があるから、ということかと。

しかし、単純に「記憶力」と言っていますが、実は記憶をすること、思い出すことは、単純に「覚える・思い出す」ということで説明したり、1種類に決められたりするものではありません。

簡単に、記憶について捉えていきましょう。

記憶を「時間」から分類する

大雑把に、記憶を保持する時間…覚えてから思い出すまでの時間で、3分類できます。

①今の瞬間から数分・数時間程度:ついさっきのこと
電話で、電話番号を聞いて、即座にメモをする⇒即時記憶、短期記憶

即時記憶が保たれなくなると、いろんなことに支障がでてきます。

  • 何しに来たんだっけ?何をしようとしてたんだっけ?と目的がわからなくなる
  • 聞いたことをすぐに忘れるので、会話が進まない
  • 即時記憶が全く保持されないと、つながりのある行動ができない
  • 「ちょっとまって、忘れないうちにメモを取るから」ということができず、即座にわすれてしまう

「認知症になると、近い記憶から忘れる」と言われることがありますが、この「近い記憶」という意味は、上で挙げた即時記憶ではなく、次で説明する「少し前のこと」を指しているかと思います。

即時記憶がある程度保たれている場合は、話の短い期間の脈絡はわかりますから、電話で少し話をする、少し立ち話をする程度だと、記憶力の低下には気づきにくいこともあります。

また、疲れていたり、イライラしていたり、寝不足だったりして、集中力がないと「話が素通りして消えていった」ということがあるように、即時記憶として保たれにくい場合もあるように思います。

記憶するには、まずその情報にしっかり耳を傾け、目を向けておく必要がありますが、そもそもそれができる注意力や集中力がコントロールできにくいと、必要な情報を捉えることができません。

単純に「記憶力」といっても、他の認知機能の影響を受けているわけです。

 

②数時間程度から数日、数週間程度:ちょっと前のこと
前日の昼ご飯は何を食べたか思い出す⇒近時記憶、中期記憶

近時記憶が低下すると、約束事などの実行ができにくくなる可能性があります。

  • 約束していたことを忘れてしまう
  • ご飯をたべたことを忘れてしまう
  • 引き出した預貯金のことを忘れてしまう
  • 同じものをまた買ってきてしまう
  • お薬を飲んだかどうかわからなくなる

約束事を忘れないようにすること、お薬をのんだかどうかなどは、確認できるようにスケジュール手帳やカレンダーなどを利用することが役に立ちます。

 

③数週間より以前:昔のこと、以前のこと
子どもの頃の出来事を思い出す⇒遠隔記憶、長期記憶

遠隔記憶は、いわゆる昔のこと、前のことです。
子どもの頃のこと、先月のこと、去年のこと、懐かしい時代のこと・・・

この部分の記憶がなくなっていくと、徐々に自分自身についてもわかりにくくなるでしょう。

要は、例えば100歳の方であっても、80歳までの記憶がご自身のなかで一番新しい記憶であれば、80歳を生きているわけです。
20歳の記憶が一番新しい記憶になり、それ以降は消えてしまっているのであれば、20歳の自分を生きている、という感じでしょうか。
そうなると、まだ結婚していない時代であったり、お母さんに頼っていた時代であったりして、娘のことを「お母さん」だと思うことがあるのも納得です。

遠隔記憶は、認知症になっても長く保たれているといわれています。
最近のことは忘れてしまい、家族のこともあいまいになっても、昔の記憶は詳細までお話される場合があります。

繰り返してお話をされていたとしても、本人は「ついさっき喋った」ということは、記憶にないものです。
同じようにもう一度お話を聞けると良いですね。

 

記憶と日常の生活

記憶力が低下すると、日常の生活にも影響が出てきます。

アルツハイマー型認知症の場合、記憶の低下は、上記の②、①、③の順で進む場合が多いと思います。

つまり、今この瞬間のことは覚えられていて会話も成立する、けれど、少し前の話になると覚えていない、でも、昔のことはよく覚えている、という状態です。

電話で安否確認をしていたり、ちょこっと立ち話をして気が付かず、しかし生活状況をみてみると、金銭管理や服薬管理ができにくくなっているのは、この状況である場合があります。

記憶力というのは、判断のために重要です。
なぜなら、判断する過程では、関連することのこれまでの状況と、これからの見通しを、目的に照らし合わせて、適切かどうかを考えなければならないからです。

例えば、「ここ数年の天気、ここ数日の天気の情報を加味して、イベントを土曜日だけにするか、予備日を設けるかを決める」という場合は、『去年、一昨年、どうだったっけ?』ということと、『今週天気どうだっけ?』ということ、もちろん天気予報を確認し、イベントの内容 も考慮し、決める必要があります。
記憶力を使うのは、過去の天気を思い出すだけではなく、その話をしている間は常に『いまはイベントの日程を決めている』ということは覚えて置かなければなりませんし、そもそも『どんなイベントを誰向けにするんだっけ』ということも記憶し配慮しなければなりません。

逆に、例えば「もし、あなたがイベントをするとして、雨が降るような予報が出ています。予備日を設けますか?儲けませんか?」という、抽象的な聞き方をすると、「雨が降りそうなのなら、予備日が必要です」と答えられると思います。
具体的に過去を思い出す必要はなく、近時記憶や遠隔記憶の記憶力を使う必要がない質問の場合は答えられるでしょう。

記憶力の低下がどのようにあるのか、どういう生活への影響があるのかは、質問紙だけでは見えてきにくい部分です。

 

記憶力の低下は、認知症に限ったものではありません。
さまざまな病気やケガをきっかけに、記憶力に影響がでることもあります。
また、もともとの個性として、記憶力も人それぞれです。

記憶について、いろいろな「記憶力」があると知っていることは、生活の中で役に立つことがあるのではないかと思います。