科目「社会保障」への親しみ方

気まぐれに,思いついたことをつらつらと・・・

所属している兵庫県社会福祉士会では,今年度から国試対策講座の「社会保障」を担当しているのですが,これって,多くの受験生さんにとっては苦手科目なんですよねーーーーー.

そういえば,私が受験生だったときも,たぶん苦手科目だったんだと思います.もうちょっと遠い記憶で忘れたけど.

社会福祉士の国家試験の科目としての「社会保障」は,歴史あり,諸外国あり,生活保護を含む社会扶助,社会保険5種と後期高齢者医療制度,社会福祉と,広範囲にわたり,出題は時々細かい制度の隙間に関する者だったりする.

まぁ,国試科目としては,なかなかやりにくいだろうな,というのは確かにそうだと思う.

これが国試が行われる年明けのタイミングであれば,『もう,つべこべ言う間があれば,1個でも記憶しなさい!』と言うところではあるのだけど,今はまだ9月.まだ,ギリギリ夏で,合格するための勉強時間は,ある.

そんな今日この頃,国試科目の講師であり,大学で社会保障論の担当する身としては,まずは『社会保障って好きかも,おもしろいかも』と思ってもらい,まなぶモチベーションを上げることに,寄与したい.

だいたいなぜ,科目「社会保障」がおもしろくないかというと,おそらく,『だって,今の私にあんまり関係ないし,近い将来もさほど関係ないし』と思っているからじゃないかな,と思う.

しかし,例えば「保険」というものを取り上げると,その制度は,いきなり地球上に現れたわけではなく,昔の人たちがいろいろ工夫してできたものなわけです.

おそらく,はるか昔から,人間は助け合って生きてきたことでしょう.知恵を出し,力を合わせ,いろんな困難を乗り越えてきたはずです.工夫して,うまく行くときもあれば,ダメになるときもあり,でもまた助け合い・・・.

保険の制度は,今ではあって当たり前で,むしろ「えー,40歳から介護保険料引かれるの?やだなー,40歳になったというのも,手取りが下がるのも,やだなー,しかたないけど,やだなーーー」と思ったりするし,給与明細を見ると「えー,社会保険料,たかっ!!!!」と思ったりするわけですが.

でも,よく考えると,病院に行くと窓口で3割分だけ出せば受診できるし,医療費が高額になると返ってくる制度もあるし,保険証があるから「あ,腰痛いから整形外科行ってこよ」と,お財布的には比較的気軽に行けるわけです.

保険の仕組みは,加入者みんなで「もしも何か困りごとが起こったときのために」と保険料を払い,それを集めておいて,実際に困ったことが起こってしまったその人に,お金を渡して『さぁ,これでその困難を乗り越えてね』とサポートする仕組み,というのが簡単な話.

実際は,その保険料をいくらにするのか,というのは,その保険料をはらう困った出来事(保険事故)がどれぐらいの確率で起こり得るのか?加入者のどれぐらいの割合に起こるのか?ということを予測し,それに必要な分を,保険の加入者で割って保険料を払う,という,計算や統計など数学的な背景に基づいているもの.

だから,古代からいきなり保険というものがあったのではなくて,貨幣経済になり,商売をする人がいて,労働をする人もいて,仲間ができいろいろと融通をするなかで,働けなくなった時や,商売ができなくなった時に備えた仕組みを仲間で作ろうと,始まって育った保険制度.

なんか,すごくない?

で,民間保険は,そんな感じで,「保険に加入したい!」という意思があって,『加入OKよー』という承諾があって,保険料を払うと,万が一の時にも安心♪ということになる.

でも,中には『加入OKよー』と言ってもらえない人や,『保険料が払えないから,加入したいけどできないな・・・』とあきらめる人もいるわけで,こんな時,日本では国が「皆保険皆年金!」を決めているんだけれど,加入しにくい人には,保険料を低減したり,免除したりする仕組みを持っているのが,公的保険の特徴.それが,国がやっている社会保障の,公的保険制度のざっくりした話.

病気になったり調子崩したときに使える,医療保険.
仕事をしていたけど離職したときにサポートする,雇用保険.
仕事中や通勤途中の怪我等の際には,労災保険.
高齢になったとき,または障害があるときに経済的に支える,年金保険.
高齢になったときの介護を受けたり,用具や施設を利用する,介護保険.

保険の制度は日本では5種類.

どれも,保険料があつめられ,サポートが必要な人に,現金や現物(診察,お薬,介護のいろいろ)などが給付される.

要は,事前に保険料を出して,将来の万が一に備えよう!そして,何かがあっても,致命的に困らないように,備えよう!ということで,保険は「防貧機能」があると言われるのも,これゆえ.

・・・自分でコツコツ貯金してたほうが,得な気がする?

そういう意見も,しばしば聞くのは確か.もしかしたら,そう思う人は,たくさん稼げるし,体も元気だし,困りごとや不安なんてないのかもしれないですね.でも,不吉な話ですが,病気はいつなるかわからない,事故にいつ合うかわからない.ならないかもしれないけど,なるかもしれない.そして,世の中には,いろんな人がいて,苦労する人がいたり,困窮する人がいるのは,その人自身の努力不足やなまけ心ではなくて,世の中の作りが,その人につらい影響を及ぼしている,っていう考え方もできる.

だいたい,生まれる場所や時期や環境や,自分自身の能力や姿やなにもかもを,私たちは選んで生まれてきたわけではないし.

私は,社会福祉を仕事にする一人としても,個人としても,社会保障の制度が,今の時代の制度になるまでの,昔の人の工夫や努力は,すごいなと思うし,社会保険や社会扶助という仕組みは,現状の課題はいろいろあるものの,そこには人間のやさしさとか,思いやりとか,不安に立ち向かう気持ちとか,いろんなものが詰まっていると思うから,面白いな,と思う.

科目「社会保障」が扱うさまざまなトピックスを学ぶたびに,「おー,すごいな.よくこれ,思いついたよな」とか「あー,なるほどな,まぁこうなるよね」とか,それを考えた人たちの姿を思い浮かべながら声をかけると,より一層,この科目は面白くなると思う.

そして,社会保障の制度は,いろいろ意見があるのは承知なのですが,その制度があることで,私たちは「まぁ,最悪何かあっても,何とかなるし」と,未来の出来事に対して開き直っていられるし,将来へ向けて,チャレンジをしてみることもできるっていう点で,私は,いい仕組みを作ってくれたなぁと思うわけです.

さらに,それを学ぶことで,今後の日本社会にとって,社会保障制度はどうあるべきか,どのようになるべきかを考えることもできる.持続可能な社会を考えるとき,これは大切なことじゃないかな,と思うのです.

 

長々と,とりとめないことを書いていますが,いつか,ここまで読んでくださった(受験生の)方が,「ふーん,社会保障って面白みがあるんだ,どれどれ」と,国試テキストを開き,さらにその後,もっとこまかく描かれている専門書で,学びを深めてもらえたらいいなぁ~と思ってます.

森のすず社会福祉士事務所でした.