読書:万引き依存症

今年は読書&記録をやっていきたいと思います。森のすず社会福祉士事務所 森保です♪
2019年の感想文5冊目は→ 「万引き依存症」 斉藤 章佳 (著)

万引きをしてはいけません、というのは当たり前すぎる話です。

でも、実際のところ、万引きは多く発生して、店舗の経済的損失は年間4000億円にのぼる、というニュースは2017年の記事で今でも多くの万引きが発生しています。

この本は、万引き「依存」に焦点を当て、治療を展開するクリニックの精神保健福祉士・社会福祉士さんによる著。
事例が多く紹介され、分かり易い内容です。
万引きが依存症!?!?と思っている方は是非よんでみてください。
ものの見方や考え方が変化するかもしれません。

それにしても、時代と共に、人間の行動はさまざまに解明されていくんだなぁと思いました。
解明された、という完了形ではなく、おそらくまだまだその途中だとおもうのですが。

万引き依存に関しても、そうです。
おそらく、今までだと・・・今でも、万引きは本人が強い意志と清い気持ちを持つようになれば、しないはずだ!!という精神論的な理解は広くあると思います。
たしかに、善悪の判断がつく年頃になり、善悪の判断が理解できるのであれば、最初の一手は、『だめ、絶対、だめ、万引きは犯罪だからやってはいけない』ということを思い、やらずに済むのかもしれません。

依存、というぐらいだから、依存するまでの経過はあるはずで、何らかの繰り返しの中で得られた結果が、「依存」という今の状態です。
まず、大切なのは、最初の1回をしない、ということです。

 

とはいえ、何らかの理由で、結局「依存症」になる場合はあります。
依存症はさまざまあり、アルコール依存症、薬物依存症、ギャンブル依存、最近だとゲーム依存症などなど。

 

ところで、依存って、そもそも何でしょう。

デジタル大辞泉で調べてみると

出典:デジタル大辞泉(小学館)

[名](スル)《「いぞん」とも》他に頼って存在、または生活すること。「会の運営を寄付金に依存する」「依存心」
だそうです。生活のよりどころを、なんらかの人や行為に頼る、ということですね。
この本では、万引きに頼ってしまう行動になっている人に焦点をあてています。
なので、例えば、「認知症になって物事が判断できにくくなり、金銭管理もできなくなり、生活も自分でやりくりできなくなり、おなかが空いたから、そこ(店)にあったおにぎりを、食べた」というような場合はちょっと違う様子。
この本の中で語られる「万引き依存症」とは、万引きという行為そのものに依存をしている人の話が主です。
働けなくてお金がないから万引きをする、というわけでもなく、日常から物事の判断ができにくく善悪区別がつきにくいから盗ってしまう、というのとも違う感じ。
万引きが例だと少しわかりにくいかもしれませんし、「悪いことは悪いんだ、しっかりした気持ちをもっていたら、悪いことはしない!」と思いがちですが・・・
例えば、これが、「ギャンブル依存」の場合どうでしょうか。
「パチンコ依存」で考えてみると、アルコールや薬物が直接体内に物質として取り込まれ、その結果脳ない物質のバランスに影響を及ぼし、それが依存につながるという「物質」の体内への取り込みがある一方、パチンコ依存の場合はこれと言った物質は体内には取り込みませんね。
でも、依存する。やめられなくなる。それは、例えば、「たった1000円で10万円勝った。エキサイティングで、嬉しい経験だった」という記憶や、「あたりになったとき、ピカピカひかり音楽が流れ、気持ちがものすごく高揚し、快感だった」というような経験。
これらの経験は、なんともたまらず、『また、あの高揚感を味わいたい』と脳裏をかすめる感じ・・・パチンコしない人にも想像できるでしょうか?
万引きの場合、盗んでもランプはピカピカしませんし、盛り上げる音楽も実際にはなりませんが、脳内では、なんらかの快感や開放感を得る状態につながって、万引き依存になる。
そして、やらずにはいられなくなる。知らず知らずのうちに、または意識して、その「感覚」を求めるために・・・。
というのが、依存になっていく過程です。
なので、実は依存の状態っていうのは、その対象が健全なものでもなるでしょうし、その場合には、問題にはなることなく過ぎていることもあるはずです。
問題なのは、依存したものが、万引きの場合は、お店に被害をもたらし、刑法にひっかかり、本人は当然、家族も途方に暮れる結果につながる、ということ。
さらに、本を読んでよくわかるのは、悪意を持った人がこうなるのではなく、普通に日常をただ普通にごく普通に生活していた人が、何か生活上のストレスや出来事をきっかけに、こうなる可能性があるということ。
つまり、あなたも、わたしも、「万引きなんてするわけもない!!」と思っている人が、そうなる可能性があるということ。
ちょっとしたきっかけで、依存症って、なる可能性が誰にでもあるんですよね。
そして、この万引き依存も、「ちょっとしたきっかけ」というのは、私たちの日常の中にもありふれたものである、というのが、この本の事例を読んでいると実感できます。
そういうメカニズムがわかってくると、気づくのは、「本人の我慢やがんばる気持ちだけでどうにかできる」というものではないということ。
治療という過程を踏まなければならないということ。
そういう観点ができてきて、治療の道が開けている、というのがこの本を読むとわかります。
もちろん、簡単な治療ではないですから、日本中どこでも受けられるものではなさそう、というのが今のところ残念な話ではあります。
が、それはこれから、万引き依存というものが広く認識され、治療のニーズが高まり、それをできるクリニックや専門職が増えて広まると言いな、とおもいます。
そんなわけで、万引きについて考える機会のある方にはおススメの1冊です。

  • 単行本(ソフトカバー): 258ページ
  • 出版社: イースト・プレス (2018/9/12)
  • 言語: 日本語
  • ISBN-10: 4781617050
  • ISBN-13: 978-4781617053
  • 発売日: 2018/9/12