【読書の記録7】
これ、想像よりはるかに興味深い内容だった。
イギリスで貧困調査をしたブースとラウントリーの調査や、その意図や背景などが前半でかなり詳しく書いてある。
この本で指摘されているけれど、一般的にはブースにしろラウントリーにしろ、その統計の結果が注目されがちで、つまり、当時の産業革命が起こった世界最先端のイギリスの大都市ロンドンと、まぁまぁな大きさの年ヨークにおいて、貧困状態の人が市民の3割いた、と言うところが有名な点。
結果を見ると確かにそうだし、その中で、特にラウントリーはご実家、大きなお菓子屋さんか何かだったようで、つまり資本家なんだけど、食べ物の栄養面に関して知識があった事から、摂取エネルギーを計算して、人間が体を維持できるだけの栄養が取れているかどうかを基準に貧困について考えた点は有名。
この本では、それはそうとして、例えばこの2人の調査や分析の視点に、階級の視点がないことを指摘している。
それは、後半の、社会的排除や社会的包摂の話につながって、また現代の日本では連帯がバラバラになってしまい、まとまって声を上げられなくなっている状態が、そもそもの貧困の調査や理解のところで、資本ー賃労働関係どうしてがなかったことを根本的な原因とするのにつながっている。
なるほどなぁー、と思う。
また、子供の貧困にも触れていて、子供の貧困への対策のアプローチを経済的投資アプローチと、ウェルビーイングアプローチの2つを挙げているが、筆者は、前者のアプローチを完全に拒否していくべきだと言う。
なぜなら、子供の貧困対策を、将来的な投資と考えるようになってしまうと、子供がモノのようになってしまい、すなわち将来大きなリターンをもたらすとが期待されてしまい、経済成長の手段とされてしまうことによる。
子供の貧困対策は、その子供自身の成長や発達をサポートするためのものであるべきだと言う感じ。
…まぁそう言われてしまうと、今の少子化対策も、このままだと、日本の将来が…ということで、明らかに日本の将来を維持するためのものっぽいし、それには、明らかに経済的な成長や維持を目的としているだろうし、経済基盤があってこその国の様々な制度の維持ができるだろうし…。
子供一人一人が、のびのびと成長し、希望を持って、子供らしく育っていければいいんだろうけれど、もうすでに子供らしさとは何なのかはよくわからないし、、、
教育は大切だけど、公立の教育が疲弊しているのも事実な気がするし。
子供の貧困対策だけでなく、子供を取り巻く社会全体の状況も、大人を取り巻く状況も、なかなか大変なんじゃないかと改めて思う。
貧困と言うと、多くの人には、なんだか他人事に聞こえる言葉なのだろうと思う。
人によって、貧困のイメージは様々なんだろうけれど、何かを自由に選ぶ、社会参加を選んでできる、ということができる状況であることが貧困でない、とするならば、結局は選択肢を自由に選択する。自由を持っていない人は、現代社会では貧困状態であると言われると、果たして自分はどうなんだろうと思う。
どうなんだろうと思うけれど、それをどうこう言えるような仲間がいるわけでもなく、孤立しているので、どうしようもなく諦めて生活するんだろうなとも思う。
そういうところを、この本は、連帯の必要性が言える部分だとして、指摘している。
まぁ、なかなか、思うところがいろいろある本だなぁと思う。
防災対策の話をするときに、『そんな将来の備えより、今生きるので必死』と言う声は、私が今まで思っていたよりも、何かもっと広い範囲で社会に原因を持っているのかもしれない…
と言うのが、1番の私の読書の収穫。
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貧困理論入門 連帯による自由の平等
志賀信夫(著)
出版社 堀之内出版 (2022/5/25)
発売日 2022/5/25
言語 日本語
単行本 224ページ
ISBN-10 4909237658
ISBN-13 978-4909237651